2021年度 理事長所信

【はじめに】

第58代理事長
矢島 敏也

 平成から令和へと時代が変わり、私たちを取り巻く社会環境は、テクノロジーの進歩やグローバル化、情報化社会の発展などの影響を受け変化が速くなり、数年先の予測もつかないような世の中になってきました。日本では、少子高齢化や人口減少の進行に伴い、社会保障制度のバランス、生産年齢人口の減少、出生率の低下、市場の縮小など、社会が複雑化し、問題が深刻化しています。また、大規模な気候変動や環境汚染などが発生し、日本を含めた世界全体が一つになって取り組むべき課題になっています。そのような中で、2019年の年末から現在まで蔓延している新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の影響は計り知れないものがあります。依然としてその脅威は衰えておりませんが、私たちは先行きが見えない不安を抱える中、未来を切り開く為、この時代を乗り越えなければなりません。このような世の中だからこそ、今まさに青年の真価が問われているのではないでしょうか。そして、私にとって青年会議所は地域社会においてどのような役割を持つ団体なのかを改めて考える場所となりました。「青年、それは力であり明日を築く原動力である。」と伊勢崎青年会議所設立趣意書にありますように、青年の行動力や創造力は、未来を変える強い力を秘めております。明るい将来の実現は、我々青年が未来に何を伝え、何を残すかを考え、それを体現する前向きな行動から生まれるものです。

 伊勢崎青年会議所は創立以来、地域発展の為、ひたむきに情熱を注いでこられた先輩方の想いを受け継ぎ57年の歴史を紡いでまいりました。時代に即した形で、地域の人びとが豊かに生きるために社会の課題に向き合うという不変の理念は、地域住民を巻き込み意識の変化を促す運動に発展してきました。

 我々の活動は、40歳までという限られた時間の中で地域が持つ社会の課題について議論を重ね、単年度で役割を変えながらメンバーが挑戦と自己研鑽を繰り返し、能動的な行動力を養う環境を創り続けていくことです。そこで培われた経験は、やがて活動のフィールドを変えても社会に還元できるでしょう。まちづくりを通して人づくりを成し、明るい豊かな社会の実現の想いを伝播させる、活動の本質は恒久的なものだからこそ、どの時代でも変わらない価値があると信じています。

 これまでも青年会議所は立ち止まることなく歩み続けてまいりました。今こそ青年の英知と勇気と情熱を発揮し、困難を乗り越える力が試されています。柔軟な思考で活路を切り開き、変化を恐れない行動力と挫けない心を持った青年こそが、次の時代を創造し、明るい社会を後世に託すとことができるのではないでしょうか。今、未来に向けて勇気ある一歩を踏み出し、想いを一つにこの時代を駆け抜けましょう。

【人間の可能性と自分らしい生き方の探求】

 ITの進歩に伴い、社会、経済、教育の在り方などは、インターネットが普及し始めた20年前と比べると多様化し、情報通信技術を使うために幅広いスキルや知識が求められるようになりました。また、ITだけではなく、AIの開発や産業技術、医療技術の電子化、自動化が図られ、私たちの生活は様々な機械テクノロジーによって支えられています。そのような技術は、現代社会とは既に切り離せないものですが、どのような時代になっても、心を感じる思考や創造性、コミュニケーションなど、人間にしかできない能力や分野があります。それは、過去から現在、そしてこの先も、時代が変わっても根本的には変わらないものです。しかし、技術の革新が進む中で利便性や快適性を求め、テクノロジーに依存してばかりいれば、今度はその能力の大切さを忘れてしまうかもしれません。これからを生きる私たちに大切なのは、人間が持つ能力の可能性を追求し、それをどんな事に使うべきなのか、どのような時にその能力を最大限に発揮すべきなのかを理解し、コントロールする意思が必要とされています。今日まで人の心と思考は無限の可能性を生んできました。人が生み出す豊かさは、テクノロジーだけではないと考えています。私達は人間でしか実現できない能力を高め、一人ひとりが自身の強みを活かせる人財を目指していくことで、これからも存続していくものと確信しています。

 また、社会の変化に伴って価値観の多様性も顕在化しています。最近では他者との相対比較ではなく、従来の常識だけに囚われない、これまでと違った考えや生き方も個性として認められる世の中になってきました。そしてビジネスの考え方も、競争力や生産性だけの追求だけではなく、SDGsの取組みに代表されるような社会の課題解決を目指したビジネスモデルなどへ転換していきます。個人の生き方でもビジネスであっても、独自の価値観を信じて追究した先には、自身の潜在的な能力に気づき、既成概念に囚われない、無二の存在感を示せるのではないでしょうか。しかし、これまでの社会通念を無視して自分の価値観を主張するだけでは、社会の中でその力を発揮することは難しいと思います。普遍的な中にも自由意志を持った自分らしい生き方を探求し続けることが、人生の支えとなり、どのような時代においても心を豊かにしてくれるはずです。

【魅力的なJAYCEEの育成】

 青年会議所が地域のオピニオンリーダー足り得るのも、英知を育み新たな挑戦と弛まぬ努力をしてきたからであると思います。青年会議所は様々な業種のメンバーで構成されており、メンバーの経験と知恵は当会にとっての財産です。そのようなメンバーが集う青年会議所だからこそ多彩な事業展開を行うことができました。この恵まれた環境を内部にも活かせればメンバー同士が各々の知らない分野のことを伝え合い、互いに研鑽を積むことができるのではないでしょうか。私は、青年会議所活動を通して学んだことは必ず仕事や人生、社会に応用できると日々感じており、40歳を過ぎて活動のフィールドを変えても、青年会議所から得たものを自身の強みにしていくことが活動の意義の一つと考えます。継続的かつ自主的にメンバー同士が高め合う機会ができれば、個人の成長だけではなく組織の強化にも繋がることでしょう。

 また、いせさきまつりの一端を担う「おまつり広場」は、伊勢崎青年会議所の先輩方が地域の活性化を願い、今日まで紡いてきた歴史や伝統があります。ここ十数年の間は、おまつり広場の各部会の中心を担うのは入会から間もないメンバーであり、新入会員の登竜門と位置づけられています。実践の場で得られる経験は、その後の青年会議所活動に対する意識を変えてくれます。組織の統制、企画の立案から準備、関係諸団体との連携などの体験から、やりがいや事業構築の楽しさを感じてもらえるはずです。そしてその活動を通して成長したメンバーは、この事業が地域への奉仕に繋がっているということに気づけるでしょう。まさに青年会議所運動を体現できる機会だと言えます。そして、経験豊かなメンバーは広い視点持って、自身の経験を基に入会から間もないメンバーの後押しを行うことで、事業の結束力は一段と高まることが期待できます。一年ごとに役職が変わる青年会議所では、全く同じ経験や役割をすることはないはずです。いせさきまつりに携わり、どのような関わり方であっても、毎年新たな学びが得られることに気づき、メンバーそれぞれの自己成長の機会を見つけて欲しいと思います。

 本年度も伝統行事の大切さを学びつつ、全メンバーで団結し、入会から間もない人財の積極的な起用でおまつり広場に新たな風を吹き込みます。

【戦略的な広報と会員の増強】

 昨今の人口減少に伴い全国統計(※1)では、青年会議所で活動ができる20歳から40歳までの人口は、2000年は約3,600万人、2010年には約3,300万人、2019年には約2,700万人となっており、約20年間でおよそ900万人も減少しています。全国各地域の青年会議所においても会員数の減少がみられ、会員の増加は急務となっています。

 私たちの伊勢崎市の状況を見てみると、2010年~2019年の間に約9,000人減少しており、現在は約51,000人、事業所数は約8,800社です(※2)。人口減少の影響はありますが、潜在的な仲間を見つける余地は充分にあると考えます。

 会員増加の恩恵は、予算増加に伴う事業規模の拡大、組織の活性化などがあります。但し、会の存続や運営の充実を図ることが会員拡大の本質ではないと私は考えます。会員拡大の本質は、地域の未来を共に描くことのできる同志を募り、能動的で魅力ある次世代のリーダーたる人財を地域に輩出することに他なりません。地域の未来を創るのは地域の人々であり、その中心が青年会議所で成長した人財であってほしいと望んでいます。地域の会員候補者に青年会議所の魅力を伝えるには、メンバー一人ひとりが「なぜ青年会議所活動をやっているのか」と活動の本質に触れてもう一度考えることが、会員拡大を行う上で必要だと感じています。

 また、入会してもらうことだけが会員拡大ではありません。入会したメンバーに活動への意欲と自己成長の機会を得てもらうためには、入会してからの継続的なフォローを行うことが大切です。入会間もないメンバーに、各委員会の連携のもと、青年会議所活動の中に多くの学びや気づきがあることを示し、様々な交流の機会を図ることで、多くのメリットをメンバーに還元していきたいと思います。良い内部環境の構築は、帰属意識を高め、その後の活動の意欲増進にも繋がるでしょう。

 その一方で、魅力ある活動を行っていても、我々の想いが運動として市民に行き届かず、地域に変化がなければ、組織の活動の意義も形骸化してしまいます。私たちの運動とその想いを伝播し続けるためには、この時代に即した広報戦略を駆使して一人でも多くの市民に向けて、その情報を発信し続けることが重要であると感じています。情報過多の時代に、新たな工夫を凝らし、様々な角度から活動の周知を図り、戦略的に情報発信の効果を絶えず分析する必要があります。私たちの活動が市民の目に留まり、人から人へと情報が伝われば、それは会員拡大の種まきとなり、やがて持続的かつ好循環に潜在的な会員候補者獲得に繋がるのではないでしょうか。

 地域の明日を想い、好循環をもたらす組織を作るために、全メンバーで会員拡大戦略の新たな可能性を見出し25名以上の会員拡大を目指します。

【頼もしい地域の構築】

 日本は自然災害大国と呼ばれるように毎年災害による被害を受けています。最近では、過去にない規模の台風が頻発しており、大規模な河川氾濫や土砂災害が相次ぐことで甚大な損害をもたらしました。災害は台風や地震だけではなく、局地的な大雨による冠水や浸水など多岐にわたり、状況に応じた迅速な対応が求められます。幸いなことに私たちの住む伊勢崎市は大きな災害の直撃は免れてきましたが、度重なる自然災害の影響で人々の防災に対する意識は徐々に高まっているように感じます。しかし、その意識は個々で差があるというのも事実です。防災に関する教育や関係機関の知識は広く開示されてきてはいますが、いざという時のために私たちの地域の特性に合った備えを行い、個々の危機意識の差をどう埋め、どう持続させていくかが今後の課題だと感じています。

 有事の際は、行政機関からの「公助」だけではなく、自らの身を守る「自助」、手を取り助け合う「共助」の精神が重要ではないでしょうか。自身や家族を守るためには、適切な判断と行動力が求められ、災害が起きた後の対応も幅広い知識が必要です。そして、広域なエリアを地域住民だけでなく企業などと連携し相互に支え合うことで、一人では乗り越えられない窮地も共助の精神で脱することができるかもしれません。有事の際や地域の復興に向けて民間の私たちが今からできることは必ずあります。いつか起こるその時に備えて日頃から災害への危機意識を持ち、様々な連携を図っていくことが強い地域ネットワークの構築には必要です。

 また、地域のつながりは地域活性化の足掛かりにもなるでしょう。少子高齢化は、地方の地域コミュニティの後継者不足の要因の一つにもなっており、近年の課題となっています。長年培われてきた優れた文化や伝統行事も次世代に伝承されなければ地域特有の魅力が失われてしまいます。昨今の伊勢崎市は企業誘致や外国籍住民の定住により、この5年間で人口が約1,500人増えておりますが、この先どれだけの地域住民が技術や伝統を魅力として捉えることができ、伝えていけるのでしょうか。私たちは今一度自らの地域を見つめ直して、先人たちの英知と地域の資源を活かし、何を後世に伝えるべきかを考える必要があります。そしてどのようにすれば周囲に誇れる地域にできるのかを自分たちの問題として考えるのは、そこに住む私たちの使命であると思います。伝える者とそれを受け継ぐ者との世代を超えた取り組みの中で、地域住民だけでなく教育機関や企業など様々な機関とパートナーシップを図りながら、その活用を考えることが地域活性化に繋がるのではないでしょうか。地域住民が過去から受け継いだものを、時代に合わせて変化させながら未来へ伝えることができれば、一層魅力的な地域になるでしょう。

【自身の可能性を広げる青少年の能力開発】

 集団の中で個性が認められる経験、他人に喜んでもらう経験、成功体験を通して、子供は自分の存在価値を見出し、物事に挑戦する勇気や意欲を持つことができます。しかし、せっかく挑戦したことでも、失敗を過度に気にすることや、周りからの評価が低いと感じると、自主的な行動も少なくなります。また、自ら出した答えでも他人と違うことを恐れるあまりに、正直な気持ちを表せないこともあります。子供の成長において、自分で自分を応援できなくなってしまえば、自身の限りない可能性に気付くことができません。

 内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(※3)によると、「自分自身に満足しているか」という問いに対して、アメリカ、ヨーロッパ、韓国などの諸外国の若者は73%~86%が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えている一方、日本は45%という結果となり、「自分には長所があると感じている」という問いに対しても、諸外国の74%~91%に比べると日本は62%と最も低い結果となっています。これは、日本の子供は諸外国に比べ自己を肯定できていないということを示しています。

 日本人の良さである謙虚な姿勢と捉えることもできますが、学校や家庭で他者の顔色を窺い自分の感じたことを言えない子供も少なくないと思います。子供が正直な気持ちで行動した結果を自身でどう捉え、どう解釈するかは、良くも悪くも周囲の接し方次第で変わります。時に都合の悪い結果であってもそれを認めて立ち直っていくことが自己肯定感を養い、子供たちが自己肯定感を持てば、自尊心が生まれて自信という大きな力になります。そして、自信は困難を乗り越える原動力にもなるのではないでしょうか。私たち大人が子供の個性を応援すれば、想像力や好奇心を掻き立て新たな自分の可能性に出会え、子供の夢や目標は大きくなるでしょう。

 自身の可能性を信じることも大切ですが、自分の考えのもとにルールを作り、状況に応じた柔軟な行動が執れるよう自らを律する心もまた大切です。それは行動や感情を抑制することだけではありません。自律というのは、最終的な目的がどこにあるのかを見極め、状況に応じて自分の行動に優先順位をつけることで、目指す道に進めるように自身をコントロールすることだと考えます。自律心を育めば、意志決定を他人に委ねることなく、常に自分の判断で進んでいく力を養うことができ、それは内面的な独立だけではなく他人の意見に左右されず物事を進める自立にも繋がります。

 自己肯定感や自律心を高めることは、自分自身の進む道を指し示す羅針盤を持つことになるでしょう。その結果、将来なりたい自分になるための能力を身に付けることができます。自分がこれからどのような人間になっていくのか、子供たちが様々な可能性を選べるように応援することが重要なのです。

【結びに】

 今日まで地域のオピニオンリーダーとして寄与できる環境があるのは、高い志を持って青年会議所運動に尽力してこられた先輩方の軌跡があったからです。その活動の理念を受け継いだ我々は一人ひとりが、地域を変え、社会を変え、未来を変える力を秘めています。一人の力は小さいがその力が繋がり集えば、どのような困難も乗り越えることができると思います。そして同じ志を持ち、苦楽を共にできるメンバーの存在こそが私を奮い立たせてくれました。伊勢崎青年会議所第58代理事長のバトンを引き継ぎ、創始の精神に立ち返りつつも、変革を恐れず力の限り職務を全うする所存です。

 末筆ではございますが、これまで深いご理解ご協力をいただいております行政並びに関係諸団体の皆様、地域の皆様、各地会員会議所の皆様に深い感謝の意を表し、今後も変わらぬご支援とご鞭撻を賜りますよう心よりお願い申し上げ、理事長所信と致します。

※1 総務省統計局-統計データ-人口推計より
出典:https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html

※2 伊勢崎市統計書より
出典:https://www.city.isesaki.lg.jp/shisei/tokei/cyosa/3612.html

※3 内閣府 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 (2018年実施)より
出典:https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/h30/pdf-index.html